霧ヶ峰で分水嶺トレイル2021年10月09日 10:37



「分水嶺」というのは、比喩的に使われることも多いかもしれませんが、本来の意味は河川の水系を決める山や丘陵などの連続した尾根筋のことをいいます。例えば、飯能と奥多摩の間にある棒ノ折嶺は、その北側斜面が荒川水系、南側斜面が多摩川水系となっていますのでこの2つの水系の分水嶺です。もっと大きくいうと甲武信岳は日本海に注ぐ信濃川(千曲川)と太平洋に繋がる東京湾まで流れている荒川という2大河川の水源地ですから日本では最大規模の分水嶺ということができます。このように日本海側と太平洋側に分かれる分水嶺の連続線を「中央分水嶺」と呼んでいます


この中央分水嶺という地理学用語を冠したトレッキングコースがいくつかあるようですが、その最大規模のコースは長野県・長和町の「霧ヶ峰・美ヶ原中央分水嶺トレイル」のようです。日本列島のもっとも太い部分で、中央分水嶺を踏破できるトレイルコースとして信州・長和町の長門牧場から白樺湖、霧ヶ峰、和田峠を経て美ヶ原高原にいたる全長38kmが公式ルートになっています。


今回、この中の一部である長野県の霧ヶ峰高原に行き、その一端を歩くことができました。車山という主峰を中心に、手入れのされた明るい草原状の峰々とそれらに周囲を囲まれている八島湿原(その一角の湿地帯は天然記念物指定)がそう呼ばれているようです(上の写真がその八島湿原とその向こうの車山)。周囲はスキー場を含めた開放性の高いリゾート地になっています。さらに大きな話をすると、この場所は、地球規模のスケールでいえば北米プレートとユーラシアプレートの2つの巨大な地殻の境界線で、日本列島の大地溝帯(フォッサマグナ)とよばれるエリアにふくまれています。東日本と西南日本がぶつかり隆起している場所ですから今でも活発な地殻活動が続いている地域ということになります。すごい場所です。


フォッサマグナは相当に広い面積を占めていますが、その中心を南北に通っている大断層が糸魚川静岡構造線です。この中心にあるのが諏訪湖であることは有名です。諏訪湖から流れ出ているのは天竜川で、これは太平洋に注ぎます。その少し北方を中山道が通っていますが、そこにあるのが、この街道の最大の難所、和田峠です。この峠はまさに中央分水界にあり、峠の北側は千曲川を経る信濃川水系で水は日本海に注ぎ、峠の南側は諏訪湖を経る天竜川水系です。中山道自体が中央分水嶺の上を通っているのかもしれません。ちなみに和田峠は黒曜石の一大産地ですから石器時代から交通の要衝であったと同時に日本の東西交通の要であったともいえます。



この和田峠からビィーナスラインとよばれる道路で結ばれているのが霧ヶ峰高原で、先ほどの「中央分水嶺トレイル」の一部になります。日本百名山のひとつであり、エアコンの商品名にもなっている日本を代表するこの高原地帯は、豊かな自然ばかりでなく、文化・歴史的にも面白い地域です。車山から四方の山々を眺めているとまさに日本の中心にいるんだという気になります。写真は車山の山頂に祭られた柱。諏訪神社の祭礼で使う御柱はこの山から切り出されたということです。