荒川ロックゲートとは2025年04月30日 07:21


東京湾から約3キロの荒川右岸に30メートルの高さでそびえる巨大な構造物があります(上は内側からみた写真。向こう側が荒川)。通称を「荒川ロックゲート」といい、ここに合流する小名木川との水位の差を調整するのが主な目的です。埼玉県を縦断して流れる荒川は何回かの大きな流路変遷を経ていますが、現在は東京都の江東区を流れ下って海に入ります。広い川幅、向こう岸には首都高速の高架橋、さらにその先には中川も流れていますが騒音は聞こえません。サイクリングの人たちを前景に悠然と流れる川。かなり開放感のある気持ちのいい景色ですが、その中でも実際に見上げるとゲートの大きさは実感できます。
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「隅田川に架かる文化財(2022年05月26日)」という記事で隅田川にかかるいくつもの橋を紹介しましたが、その中でもっとも美しいといわれる清州橋。この清州橋のすぐ上流にあるのが小名木川です。この川は江戸時代の初めにつくられたいわゆる人工河川=運河です。その役目は江戸川や利根川を通して江戸に物資を送るためで、特に、当初は、非常に大事であった「塩」を確保するため、現在の葉県・行徳にあった塩田からの流通を行うのが目的だったようで、この運河を利用したルートが「江戸の塩の道」と呼ばれることがあります。



当時の江戸湊(現在の日比谷付近)は、広大な砂州や浅瀬が広がり、船もしばしば座礁するような場所で、安全とは言えませんでした。そこで小名木四郎兵衛に命じて、行徳までの運河を開削させたのが小名木川の始まりであるとされています。この運河の開削によって、安全に塩を運べるようになり、かつ経路が大幅に短縮されたため、その後、塩以外の品物の運搬やさらに成田参詣客などもこの航路を使うようになり、行き交う物量が増大していきました。


やがて小名木川は江戸物流の重要河川と認識され、利根川東遷事業と併せて拡幅され、小名木川と旧中川、新川の合流地点には「中川船番所」が置かれ、幕府の役人がそこに駐在し、行き交う船の積み荷に江戸の治安上危険な物などが紛れ込んでいないか確認するために簡易な検査をしたようです。新川、江戸川、利根川を経由するこの航路が整備されると、この地=小松川界隈が発祥の野菜が小松菜として有名になるなど、近郊の農村で採れた野菜、東北地方の年貢米などが行き交う大航路となっていきます。



この小名木川と中川が合流する場所は、経済面ばかりでなく、江戸の観光名所のひとつでもあったようで、多くの名所図絵・浮世絵にこの風景が描かれています。有名な歌川広重の『大江戸名所百景』の一景に「中川口」があります。『百景』忠には他に「小奈木川五本まつ」などもあり、この場所がかなり人気だったことがわかります。


水位差を調整する2つのロックゲート


こうして発展してきたこの地の水上交通は、電車や自動車など他の交通手段に置き換わり衰退していく中でも重要な役割を果たしていましたが、明治末年から大正、昭和まで、この付近の地理生活環境を一変させる大工事が始まります。明治43年の大洪水を契機に、東京の下町を水害から守る抜本策として開始された荒川の大改修です。事業は昭和5年(1930年)に完成しすからほぼ20年間の期間を要したことになります。これによってこの地域は一気に市街地化が進むことになり、現在の下町の光景がつくられていきます。


広大な上流部を持つ荒川(当初は荒川放水路と呼ばれていました)と中川や小名木川には水位の差がかなりあり、船の交通には不便でしたので合流地点には「小名木川閘門」「小松川閘門」「船堀閘門」が設置されていて、その調整を行っていました。


その後、江東地区の工業化による地盤沈下などにより、昭和50年代には閘門は閉鎖されていましたが、2005年に「荒川ロックゲート」と「扇橋閘門」の2つが完成し、再び、旧中川を経由して荒川への通行が可能になりました。閘門(ロックゲート)とは、水面の高さが違う2つの川のあいだを船が通行出来るようにするための施設で、荒川ロックゲートは荒川と旧中川とを結ぶ閘門です。このロックゲートの完成によって、荒川と旧中川、小名木川、そして隅田川が結ばれました(平成17年10月)。また、扇橋閘門は、江東三角地帯を東西に流れる小名木川)のほぼ中央に位置して、水位が異なる河川を通航可能にした『ミニパナマ運河』と言える施設で、2つの水門(前扉及び後扉)に挟まれた閘室と呼ばれる水路の水位を人工的に変動させることにより、船の通航を可能にしています。


小名木川の両岸は歩きやすい遊歩道になっていますので、中川(現在は旧中川)との合流点から隅田川合流点まで、この扇橋閘門を見ながら歩くことができます。時間があれば砂町銀座商店街など下町情緒の残る場所を巡ることもできます。


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