涼しい話題―日本の氷河2021年08月27日 13:36

厳しい残暑の中、涼しい話題をひとつ。

その昔の自然地理学では「現在の日本には氷河地形はあるが氷河は存在しない」と教えられました。これは最近まで正しかったのですが、つい最近(2012年)、立山連峰の3か所の雪渓が氷河であることが確認され、けっこう大きなニュースになりました。
(上は、剱岳の三ノ窓氷河(左)と小窓氷河(右))

氷河は、いわゆる万年雪=夏も残る雪渓と外見上はまったく同じなのですが、その最深部にある氷床がごくゆっくりとながら下流に移動していることが条件になります。以前から推測はされていたようですが、規模が小さいこともあって実際に確かめる方法がありませんでした。2009年ころから富山県の立山カルデラ砂防博物館の研究者がGPSなど最新の機器を使って研究を行い、数年間にわたる継続調査で確定し、学会に発表したものです。

最初に確認されたのは、立山連峰の主峰のひとつである劔岳の東方斜面にある三ノ窓雪渓、小窓雪渓と、これも立山三山の主峰である雄山東方の御前山雪渓です。それぞれ、20m以上の冬の積雪の下に、厚さ30m以上の氷体(氷河本体)が確認されました。特に三ノ窓雪渓の氷体は、最大厚さが60m以上で長さも1kmを超えるということでかなりの規模でした。氷河の移動速度はひと月に20~30センチというものですが、これまで、この厚い氷河の底の位置を正確に計測する方法がなかったのでしょう。

その後も富山県や、これに負けじと長野県も調査を行い、現在までに全部で7つの氷河が確認されています。すべて飛騨山脈(北アルプス)北部にありますが、立山連峰には5つの氷河が集中しています。この発見により、極東地域の氷河の南限がカムチャツカ半島から立山まで大きく南下することになり、世界的に見れば最も温暖な地域に存在する氷河としても注目されています。これは今も隆起を続けている急峻な地形と日本海からの水分を含んだ豪雪のもたらした自然の結果だと思われます。以下がその氷河です。

 剱岳東面の三ノ窓氷河
 同 小窓氷河
 同 池ノ谷氷河
 雄山東面の御前沢(ごぜんざわ)氷河
 真砂岳東面の内蔵助(くらのすけ)氷河
 鹿島槍ケ岳のカクネ里氷河
 唐松岳の唐松沢氷河

このうち、立山三山縦走では御前沢氷河と内蔵助氷河が見られ、内蔵助氷河には降りることもできます。御前沢氷河のある雄山の反対側には日本で初めて氷河地形が発見された山崎カール(天然記念物指定)もあります。すごいです。

自然は地道府県などを選びませんが、地元にとっては、特に観光面でのPR要素としての価値は大きいものでしょう。県境にある鹿島槍ケ岳や唐松岳の調査は長野県が行い、唐松沢氷河は2019年に確認されたものです。これからも新しい氷河が発見されるかもしれません。

参考:富山県ホームページ(https://www.pref.toyama.jp/1711/kurashi/seikatsu/seikatsueisei/yuki/tateyama/tateyama_hyouga.html