武蔵野の川、源流への道2023年01月25日 13:23


前回の記事で、私の住んでいる街を貫通して流れる黒目川という中小河川について「交通を分断している」という否定的な面を書いてしまいましたが、日々の散歩やお花見の時期の祭りなど、この川自体は人々の生活の中でけっこう重要な地位を占めています。最近は水質もいいですし鳥類・魚類などの自然生態系もそれなりに豊かというか、まぁ、それ以外の場所がほとんど都市化されてしまったということではありますが、市民のお気に入りの場所になっています。


この川は、武蔵野台地を流れる多くの河川と同様に、いわゆる奥武蔵―関東山地に降る雪や水が流れ出て伏流水となって地下の透水層をくぐり台地周辺部で源流の湧水となって流れ下るというのが地形的なメカニズムです。武蔵野台地はほぼ平坦に見えますが、東に向かっては東京湾にゆっくり傾斜し、南北方向には多摩川地(南)と荒川低地(北)にこれも次第に高度を下げていきます。この台地の尾根というか、中央背骨部分つまり分水嶺にあたるのは、地図でいうと新宿から青梅方面に向かってまっすぐ延びている青梅街道ということになるそうです。江戸時代に掘られた多摩川上水は多摩川の水を江戸に供給したわけですが、青梅の羽村付近でこの多摩川の水を取水し、武蔵野台地のこの分水嶺に沿って流下し、現在の小平市付近で野火止用水を分水してから南に向きを変え、四谷方面まで地表を通り、そこからは様々な上水や地下の木樋を通って下町まで流れました。分かれた野火止用水も広大な台地を潤す用水として利用されてきました。


この両上水が分かれる小平という土地は実は黒目川の水源地のある場所でもあります。水源地と野火止用水はほんの数百メートルくらいしか離れていません。そのあともこの2つの流れは新河岸川に注ぐまでほぼ並行して流れていきます。用水はやや標高の高い場所を流れるため水田や畑に利用でき、一方、黒目川は流れを蛇行させ、ゆるやかな流れを保つことで水運などに利用されてきました。


私はこの黒目川の水源地には過去3回程来ていますが、今回はいつも山歩きをしている地元のグループの行事としての参加です。東武東上線・朝霞台付近から約4時間半、周辺の景色や河川・民家の植栽、古寺見学などを交えながらゆっくり歩きました。思ったより寒さはなく、日当たりの良い場所では気持ちがいいくらい。


到着したところは現在は都立小平霊園の中で保存樹林となっている雑木林の一角にある「さいかち窪」という低地です。昔は一帯が森林で豊富な湧水が出ていたところなんでしょうが、現在は冬季になると完全に干上がってしまい(増水期に)川の流れた跡がまるで遊歩道のように林の中をくねくねと通っています。林は結構広く保存されていますので、付近の黒目川に沿った樹林とともに、この地域の自然を残す貴重な場所になっているようでバードウオッチングを楽しんでいる人に出会ったこともあります。


ところで、この黒目川の水は水源到着30分ほどま前に休憩した久留米西団地内の親水公園を過ぎたところで突然無くなっていました。そこには水の音がしてどこかから流入しているようです。私の推測では少し西にあって標高も高い野火止用水から分水している気がします。立派な親水公園ですので景観を守るためでしょうか。黒目川はそのさらに下流で、これも有名な湧水を水源に持つ落合川が合流して流量を増やして流れていきます。