富山の海と黒部峡谷2023年06月21日 11:31


梅雨の晴れ間を選んで富山県を旅行。以前から目をつけてた富山湾沿いのサイクリングと宇奈月温泉からのトロッコ列車に揺られての黒部峡谷探索を楽しんできました。2泊3日で、黒部地方鉄道という超ローカル線に2時間乗車という強行日程でしたが、行きたいところだけ行くという個人旅行なので気分は案外リラックスしたものでした。


 富山湾沿いのサイクリングロード


深くそして不思議なことで知られる富山湾は逆扇形に広がる広大な海岸線を持っています。富山県はその海岸のカーブに沿った専用のサイクリングロードを整備しています。氷見市から朝日町までその延長は102キロメートルもあり、場所により道路の雰囲気や状態は違うようなのですが、至るとことに道の駅やキャンプ場が設置されていますので利用者は安全に走ることができるようになっています。




午前の結構早い時間にJR富山駅に着いた私たちがスタートしたのは駅から直行する形で走っている市電で20分ほどの距離にある岩瀬という港街です(ちなみにこの市電にはさまざまな車体が利用されていて、かつての都電みたいなものから色鮮やかな3両編成の最新型まで見ていて面白いです)。駅隣の公共施設でレンタルした自転車でまずは海岸を東の魚津方面に向かいました。上の写真のような海岸沿いの松の防風林の中に切り開かれた専用道路でここをひたすら走ります。いたるところに自転車以外は侵入できないような柵が設けられていますので危険性はありません。もちろん海岸線ですからアップダウンはなく快適です。このへんは有名は蜃気楼が見られる場所ということで「しんきろうロード」と名付けられていますが、あいにく梅雨の曇り空で、能登半島もかすんで見えるような状態でしたが、海に波はなく、静かで、自然状態の日本海海岸を見ることができ満足です。スタートした岩瀬の町は日本海海運の盛んだったころの栄華を偲ばせてくれる歴史の町であり、サイクリング後の散策も興味深いものでした。


次の日は富山駅から富山地方鉄道で黒部川上流の宇奈月温泉に移動です。この鉄道は昨年の立山登山の最後に立山駅から富山まで帰る時も利用しましたが、少しスピードを出すと車体が大きく揺れるのを思い出しました。まるでバスのように短い駅間で水田の広がる富山県内を縦横に走っていて便利とは思いますが、なにせ運行本数が少なく、途中から利用者はほとんどいなくなりました。


 日本最大のV字谷をさかのぼる


翌日、快晴。この日はいよいよ宇奈月温泉から黒部峡谷鉄道(通称:トロッコ電車)で黒部川渓谷をさかのぼり欅平に向かいます。この鉄道は、良く知られているように太平洋戦争以前から、ここ黒部川の電源開発のための資材・人員運搬用として設置されたもので、そのダム建設自体が映画や小説の題材になるくらいの過酷な事業でした。終点の欅平はその建設のための拠点だったわけですが、いまでもこの鉄道以外にここに来るための道路はなく、建設機械などの大きな設備はヘリで運び、冬季の保守点検は歩いて来るしかないそうです。そのための専用トンネルがあり、途中で見ることができます。


トロッコ鉄道からは左右に黒部川の渓谷美と絶壁の山肌に映える広葉樹が迫ってきて大迫力です。この自然は、北アルプスの地殻隆起と黒部川の急流がつくりだした日本最大のV字谷の景観ですが、それに加えて、その中に刻まれた人間の開発の歴史自体もこの自然公園のすばらしさのひとつになっていると思います。そこに、ひとつの自然公園を超えた雄大なものがあるようです。




終点の欅平にはビジターセンターもあり、祖母谷から白馬岳方面に向かう登山道があるのですが、雪害のためか、途中で通行止めになっています。またパノラマ新道という黒部川を遡っていく本格登山道もありますが、ここも一部が修復中の標識がありました。いずれにしろ、私はどちらも行くつもりはなく、猿飛峡と名付けられた川沿いの遊歩道を歩いただけでしたが、この日はそれで十分満足です。黒部の谷は深く急峻なため、すぐ近くにある3000メートル級の高山も見えませんが、唯一見える箇所がありましたす。小さく頭を出しているのが唐松岳だそうです。途中で出会ったボランティア指導員のかたにうかがいました。


この欅平には黒部川第3発電所がありますが、この第3発電所建設までの黒部川電源開発事業の苦闘の模様は宇奈月温泉にある「電力記念館」で見ることができます。思えば、昨年訪れた黒部第4ダムでは映画『黒部の太陽』が流されていて「関電トンネル」がいかに大変な事業だったかを観光客にPRしていましたし、最後に寄った立山駅では、ダム建設のあとに掘られたこれは観光用になると思いますが、これまた大変な難工事だった「立山トンネル」完成までの記録が駅構内で上映されていました。黒部川と立山連峰を舞台にしたアルペンルートの誕生には戦後の日本社会の発展の原動力になったエネルギーの一端が注ぎ込まれていたことが分かります。


さらに2024年春には、この欅平から作業用専用線として設けられている地下の「黒部専用道路」と「黒部トンネル」を走る軌道専用電車を一般公開して、黒4ダムまでつなげる新ルートが計画されているそうです。そのほとんどが地下鉄道になりますが、これで「立山黒部アルペンルート」は南北方向にもつながることになり、新しい旅行の企画も始まるかもしれません。