飯能南アルプスを縦走2021年06月04日 15:11


日本アルプスという名称は、イギリス人の登山家がヨーロッパアルプスに因んでつけた愛称というのはよく知られていますが、これが定着するにつれ、各地に小さなご当地アルプスが次々に生まれていきます。鎌倉アルプス、沼津アルプス、湘南アルプスなどなど、埼玉県にも宝登山などを含んだ長瀞アルプスや皆野アルプスなどがありますが、東京都の県境である高麗川・入間川沿いの飯能地区にも「飯能アルプス」があります。標高は200メートル以下からせいぜい600メートル程度の低山の連なりなのですが、情報によると飯能アルプスとは天覧山から始まり、子の権現を経て伊豆ケ岳(一説では武甲山)まで続くのだそうです。距離が長く、それなりの脚力と縦走時間を必要とするので隠れた名コースになっているとかいないとか。

さて、この飯能アルプスの中で飯能駅に近い山々を“飯能南アルプス”と呼ぶことを知りましたが、今回、東吾野駅から飯能駅までこの「南アルプス」を縦走しました。昨年の夏にはこの山稜を吾野駅から子の権現まで汗をかきながら歩きましたが、思えばこれは北飯能アルプス制覇だったことになります。

新型コロナの警戒期間中のことなので団体としての登山は中止、今回は個人が集まっての集合登山という建前です(まるで「一匹狼の集団」みたいな不思議な言い方です)。いろいろあって午前8時過ぎには東吾野駅におのおのが到着していました。ここから登る人は少ないのか、見つけた表示板もかなり古びています。難しい道ではないのでまずは最初の目標である天覚山に向かいます。ほとんど水の枯れた沢沿いの道の両岸はスギの林ですが下草もありかなり涼しく、快適です。稜線に出るまでは短いながらかなり急坂が続き、最近の運動不足の参加者にはこたえたのでないでしょうか。50分ほどでたどりついた稜線に伸びている登山道は広く、落ち葉も少ないので道筋は明瞭です。見上げる先の天覚山(445メートル)頂上に着くと奥多摩方面が開けているようです。ここからがアルプス縦走の開始ですが、西川材と呼ばれる木材の産地ですから左右どこまでもスギの林が続き、その中にいくつものアップダウンが連続しています。どれも高くはないのですが下りの傾斜はけっこうきつくバランスに気を使います。

天覚山からの長い斜面の途中には東峠など高麗川方面への何本もの谷筋がありますので、そこへの長い下りもあり、また登るというパターンの繰り返しなので、時間は意外にかかります。「展望がほとんど効かないところが人気のでない理由だよ」などと勝手な悪口をいいながら進むと聞こえてくるのは飯能カントリークラブの芝刈り機の音のようです。東南に開けた広大なゴルフ場の整備された緑はまるで別世界です。登山道とゴルフ場とは金属のフェンスで明確に仕切られていますが、逆側にも私有地があり、バイクの専用コースなども造られているようでまさに都市近郊の山稜という感じです。

武蔵横手駅方面へのエスケープルートになっている久須美坂につくと、もう11時半過ぎなので道脇で昼食休憩。我々はここまでトレイルランの若者くらいにしか遭遇しなかったですが、このあたりからやや人が増えてきます。飯能方面から歩いてくる人が多いのでしょうか。さらに進むと途中に「丘の上公園」という見晴らし台のような場所があり、眼下には目新しい住宅群と団地の建物が見えています。地図を見ると飯能日高団地とあります。この付近まで飯能市の宅地開発が進んでいるようです。ここで関東山地から続く丘陵がいったん終わり、登山道は新興住宅のすぐ近くを通り、犬の鳴き声なんかも聞こえます。

つまり登山道はここで平地に出て車道を渡り、あらためて多峯主山と天覧山の2つの山に登ることになります。多峯主山(270メートル)のアプローチもやはり小さな段丘のアップダウンの繰り返しですが、多分、付近の住民は散歩のつもりでこの山を登っているのかも知れません。やがて頂上に近づくとすっかり整地された公園のような雰囲気で、太陽光発電で処理されている感じの良いバイオトイレがあり、その先に、頂上―展望広場があります。少し前まで木々にさえぎられていと思われますが、すっかり見晴らしが良くなり、秩父方法から奥多摩方面、反対側には所沢から池袋、新宿まで一望できます。この日は晴れていたのですが遠景がはっきりせず、スカイツリーもよく見えませんでした。

ところで、多峯主山(とおのすやま)は、名前が気になっていたのですが、とうとは「塔」で山の事、つまりこの付近では目立つ山だったので名づけられた、かなり古くからの呼び名みたいです。標高は低いのですが、飯能の人々が意識する山であり、頂上にある経塚や静御前伝説が示すように古くから信仰の山であった証拠です。ここから続く天覧山とともに飯能の街のシンボルになっています。

天覧山に着いたのは午後3時過ぎ。7時間近く歩きましたので、本当に疲れました。飯能アルプスを甘く見てはいけまん。

奥武蔵を歩く楽しみ2021年06月21日 18:46


埼玉県の南部に住んでいる人は、良く晴れた朝などに少し高い場所に登って西向きの地平線を遠望すると、意外と近くに連綿と続く山並みを目にすることができます。気象条件によってはその山肌さえ見えそうなほどで驚くことさえあります。

秩父山地を手前にして北に赤城山、西に富士山や丹沢の一部が見えているわけですが、中でも武甲山を頂点として少し北の笠山までの秩父山塊は一番身近な山々です。関東平野が西に向かって次第に高まり、やがて埼玉・長野・東京・山梨の都県境界にそびえる山岳に向かって広がるのがこの関東山地です。そしてこの関東山地のうち埼玉県西部に属する山々とその周辺の丘陵地帯を一般に奥武蔵といいます。

取り立てて高い山はないものの、荒川と入間川という大河川とそれに流入する無数の小河川が形成した渓谷とその間細い谷間に猫の額のような平地が点在するこの地は、武蔵野国と秩父その先の信州や甲州とを結ぶ古道が縦横に刻まれた古代からの人々の生活と伝統文化が残る地域でもあります。現在その山並みを曲がりくねって縫う道は絶好のハイキングコースとなり、とりわけ埼玉県の人間には「黒山三滝」など幼いころからのおなじみの山です。

前の記事(飯能アルプス)に続いてまたこの奥武蔵に出かけました。コロナ禍により県外移動を自粛している関係でこうなるわけですが、ほんとうにこのところ西武新宿線を使って高麗や吾野にでかけることが増えました。今回は吾野駅から顔振峠を経て越上山、鼻曲山、桂木峠を通って越生の街に抜けるというコースです。何回か歩いたことのある道ですが、登山道と一般車道や林道が入り乱れている場所ですので、行きかう人も多く、さらに顔振峠(かふり峠)近くには兵九郎茶屋やカフェなどもあるので登山者ばかりか、普通の観光客もけっこういます。

奥武蔵一帯は、全体的に垢抜けしていない場所ではありますが、中世の交通路の雰囲気を残し、歴史的・宗教史跡なども抱負な場所ですから、ひと工夫すればさらに面白い名所になると思います。(写真は桂木観音の参詣道)