ファーブルの登山2018年02月08日 19:45


ヴァントゥ山(モン・ヴァントゥ)はフランス南東部にある標高1900メートル余りの山で、ピレネーやアルプスなどの大きな山脈に属さないため「プロヴァンスの巨人」という異名を持っているそうです。『昆虫記』で名高いファーブルはこの山に25回も登っています。特に登山家でもないファーブルですが、生活の場の近くにあり、植物や昆虫のさまざまな姿が見られる場所としてこんなにたくさん登ったのでしょう。30年間にわたり書かれ続けた『昆虫記』の第1巻に書かれていますから、ぜひとも記録に残したい思い出のひとつでもあったのだと思います。

1879年、ファーブル55歳の時に出版されたこの『昆虫記』第1巻から、当時の登山の様子を知ることができます。この時の登山は1865年8月、23回目のもので、グループは8人。このうち、目的のある研究者は3人だけで、あとは誘いにのった同行者のようです。便利な交通手段のない時代なので前日に麓の村で一泊していますが、これが「カフェを兼ねたかなりさわがしい宿屋」だったらしくファーブルはほとんど寝られなかったと書いてあります。

当時のヴァントゥ山はかなりのハゲ山状態だったようで、最初の登山道から相当の悪路、難路の連続で、ファーブルは『道路工事に使う割り石を(2000メートルまで)積み上げた』ような山だという表現をしています。中腹になるとやっとブナなどの広葉樹林体があらわれてきます。ファーブルのことですから植物の垂直遷移については細かい説明があります。1時間以上かかってブナの森を抜けた場所に清冽な泉があり、一行はそこで昼食休憩をします。彼らの食欲は素晴らしい。持参したお弁当の中身が全部書いてありますが、かなり豪勢です。羊の干腿肉と山の様なパン、ニワトリ(肉)、チーズ、サラミソーセージ、油漬けのオリーブ、メロン、壺入りのアンチョビそして当然ワイン。デザートということでタマネギ―日本のと違って塩をつけて生でかじるのだそうです。ヨーロッパ人ですから当然肉食中心なのですが、こんなに食べてワインを飲んで大丈夫かと思います。

1時間ほど休んでから稜線を歩き、一度山頂に行っててから少し下にある小屋に向かう予定をたてます。山頂の反対側は切り立った断崖になっているようで石を投げて遊んだりしています。山頂でファーブルはジガバチの一種が何百匹も固まって石の下に潜んでいるのを発見し、確かめようとしますが、その時に急に雨が降りだし、おまけに白い霧が湧き出て一行の視界をふさいでしまいます。天候の急変は山の常ですが、独立峰のこの山ではさらに多いのだそうです。いま歩いてきた森林のある方角に戻って登山道を下ればいいのですが、白いガスの中でまった方向がわからない状態になってしまいます。うっかり反対に歩けば恐ろしい断崖です。登山家でない彼らは磁石も地図をもっていません。この山に20回以上来ているファーブルが頼りですが、本人もまったくわからない状態になります。

結局、彼らは身体のどちらが濡れているかで最初に雨の降ってきた方向を確かめ、森林帯にたどりついてからはファーブルの知識で生えている植物の種類で道を探し出し、無事に小屋にたどり着きます。登山道といいましたが、当時は、夏になると羊飼いに連れられた羊たちも登ってきたそうでまったくの生活の道だったようです。また小屋といっても石造りの小屋は屋根に穴が開き、煙が充満した部屋の中で、木の葉を重ねた上に寝るという始末で、とうとう2日目も睡眠不足で下山となったようです。一行8人のなかで、研究者以外の5人は2度と山に登ろうとはいわなかったそうです。
(写真は「wikipedia」よりの転用:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A2%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%83%B4%E3%82%A1%E3%83%B3%E3%83%88%E3%82%A5

コメント

コメントをどうぞ

※メールアドレスとURLの入力は必須ではありません。 入力されたメールアドレスは記事に反映されず、ブログの管理者のみが参照できます。

※なお、送られたコメントはブログの管理者が確認するまで公開されません。

名前:
メールアドレス:
URL:
コメント:

トラックバック

このエントリのトラックバックURL: http://mylongwalk.asablo.jp/blog/2018/02/08/8784805/tb

※なお、送られたトラックバックはブログの管理者が確認するまで公開されません。