ドストエフスキー『死の家の記録』2016年11月25日 17:19


ドストエフスキーが自分自身のシベリヤでの懲役刑体験をもとに発表した小説。これによって作家としての名声を得たといわれ、またその後に発表していく数々の小説の人物や人間関係の原型になったともいわれています。

確かに、ドストエフスキーの作品、特に長編についていえば、はそのほとんどが犯罪(殺人)にかかわるもので、当然のように個人の内面や閉ざされた世界の中での人間関係が果てしなく描かれています。そしてその背後には常に犯罪のにおいがしています。これは、ドストエフスキーの人間(?)としての性格もあるでしょうが、この数年間にわたる懲役囚との(いやがおうでも)濃密な生活体験が関係していることは想像ができます。

ドストエフスキー自身は政治犯としての流刑だったようですが、当時の監獄の懲役人がそのほとんどが強盗や殺人などに関与した犯罪者でした。私には、現在の日本の刑務所だってその中での生活はほとんどわかりませんが、1860年代のシベリヤでの監獄生活がどうだったのか。日本でいえば江戸末期、高野長英が小伝馬町の牢獄から脱獄を企てた時期にあたります。

ロシアではその後、革命を経て、悪名高いスターリンの強制収容所が存在しました。さらに、ナチスの強制収容所、日本人なら第2次大戦後のシベリヤ抑留者の過酷な生活が思い浮かびます。どれも悲惨な体験ですが、こうした極限の体験記録が、特異な時代の特殊な記録でありながら、人間の存在の根源を考えさせるのは不思議です。

上の絵画はヴァシリー・グリゴリエヴィチ・ペロフによるものです。