御嶽山の<百草丸> ― 2016年09月22日 16:22
木曽御嶽信仰の続き。御嶽山を開いた覚明や普覚あるいは一般的にこうした行者・修行者はいったいどんな生活をしていたのでしょうか。有名な役小角もそうですが、深い山にこもって修行して、精神を鍛えたのはわかりますが、果たしてそれだけで人びとに尊敬・畏敬の念を起こさせられるかということです。もちろん、伝説のような霊力を持っていたというような考えは問題外です。
どうも、その秘密のひとつは、こうした行者の<医学知識>にありそうです。以下は、普覚の例ですが、『御嶽の信仰と登山の歴史』(生駒勘七著)という文献によると、普覚行人は、江戸で剣法などを学んだのち、宗門に入り聖護院派の伝燈阿閣梨に進んだ後、「庶人の為に病厄を戒除する」と称して深山にこもって木食、水飲の修行に努め、諸国周歴の旅に出たといわれています。さらに、剣法指南の傍ら、庶民のために「病気その他の祈祷をおこなっていた」ようで「京橋八丁掘の和田孫八方(後の明岳院広山)で石に呪文を唱えながら少女のあざを治した」「秩父にあって、木曽王滝村出身の日雇頭与左衛門の失明を救った」などの話が伝えられています。木曽御岳山の王滝口開拓もこの与左衛門との関係からです。
つまり、彼らは、山野を歩く中で、主として薬草を中心とした<医学の知識>を獲得していたではないでしょうか。山に入れば野草や木の実を食べ、ケガの治療にも薬草を用いることはごく自然です。火山にある硫黄などの鉱物も利用したでしょう。長年のこうした知識が、医学も薬品もない時代には非常に役立ち、いわゆる漢方・オランダ医学などの恩恵に浴せない庶民には喜ばれ、これが修行者の霊力のひとつと思われたのも不思議ではありません。
そうなると今度は、霊山と呼ばれる山は薬草や有用鉱物などの生産地であるという見方もできます。特に木曽御岳山は野草の宝庫といわれるほど豊かな植生がありますから薬草利用の歴史も古く、さらにその伝統が現在まで続いているのがすごいです。じつは、今回木曽御岳山のことを調べていて、私が、その地元でつくられ続けている<百草丸>という胃腸薬を持っていたことにはじめて気が付いたのでした(写真上)。宣伝ではありません。
これは家族から勧められて服用していたのですが、あらためて見るまで、このビンのラベルに印刷されている<山丸三>という普寛行者にゆかりのマークにも気づきませんでした。人間は見たいものだけしか見ない、案外こんなものです。
この<百草丸>は、普覚行人が村人に製法を伝授したという伝説があり、いまでは2社のメーカーから同じ名称で製造されています。どうも、マークなどに商標権争いなどもあったようで、同じく胃腸薬の<正露丸>に似ています。
コメント
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