『レイテ戦記』を再読2016年08月03日 17:24


毎年夏になると読みたくなる本があって、暑さであまり外に出かけられないこともありますから何日かを読書で過ごします。ここ数年はウィリアム・フォークナーの名作『8月の光(原作名はLight Of August)』を読むことが多かったですね。これは別に書きますが、もう文庫本が傷んできてしましました。今年は久しぶりに大岡昇平の『レイテ戦記』を読み返しています。たぶん3回目くらいになります。

ご存知のように、1944年11月から約1ケ月半ほどの期間、太平洋戦争末期のフィリピンで繰り広げられた日米の戦闘の記録で、日本の戦後文学の金字塔ともいわれています。

実際は「戦い」というよりほぼ一方的な日本軍の壊滅なのですが、その実に詳細な戦闘記録を積み重ねていく中で、作者は日本とアメリカの兵士たちの「声」を聞こうとしています。もちろん、実際にも一部は生き残った兵士の記録ですが、多くは、死んでいった兵士たちの無言の叫び声です。

『レイテ戦記』は昭和42年(1967年)から数年間にわたって発表されています。この年は戦後22年目です。まだ当時は太平洋戦争の記憶が鮮明なひとも多く、反響も大きかったと思います。それからなんとまた50年近く経過しているのです!。「戦後」という言葉もほとんど死語になり、先の戦争は遠い遠い記憶になりました。

なにしろ膨大な作品ですし、地図などで戦場の位置などを確認していると、再読には時間がかかります。何回か感想を書いていきますが、再読であらてめて思うのは、不謹慎かもしれませんが、作品としての圧倒的な「面白さ」です。心理小説の名手、大岡昇平ですから、全30章は、どんな場合でも冷静な状況分析と、まるで神の眼とも思える徹底的な論理性をもって書き続けられています。まるで、余計な部分は1行もないという感じです。

写真の2冊(上下)はまだ大岡昇平が存命のときに出た「全集」の中のもので、発行は1983年(昭和58年)。亡くなる数年前ですから、いくつかの加筆もあってかなり決定版に近いと思います。