浮世絵の講演会を開催2016年05月23日 08:31

このように満員でした。

このブログでもたびたび書いているように、2年ほど前から<浮世絵を歩く>という「まち歩き企画」をやっています。当初の狙いは歌川廣重の『名所江戸百景』の舞台をたずねて、その場所の写真や映像を撮ろうということでしたが、回を重ねるうちに、だんだん、その目的が町を歩くこと自体にやや変質してきていますが、依然としてう江戸浮世絵の世界(時代)の雰囲気を探るというテーマは持続しています。

私は、浮世絵に関しては新参者で、各種の街道絵図や廣重、北斎などの風景浮世絵(いわゆる名所絵)からその面白さを知ったもので、浮世絵全般に関する知識はほとんどありませんでした。しかし、調べてみればみるほど、この浮世絵というものが、今は失われてしまった、特に江戸時代=近世の風俗や民俗・地理などを知るための実に貴重な文化遺産であることに気づかされます。もちろん(過去にはそうでもない時代もありましたが)現在では日本を代表する芸術でもあります。

そこで、この浮世絵についてもう少し勉強してみようということで講演会を企画しました。私の所属する「博物館友の会」で提案し、5月21日(土)に開催されました。<浮世絵で楽しく見る江戸文化 ~美人画・役者絵・名所絵の魅力~>ということでお話をしていただいたのは國學院大學教授で国際浮世絵学会常任理事の藤澤紫先生です。肩書はすごいですが、40歳代(たぶん)の魅力的な女性です。最近はテレビなどでも活躍していて今後の江戸文化研究の第一人者になるのではないかと期待されています。『遊べる浮世絵 体験版江戸文化入門』などの著書もたくさんあります。

当日は180名という参加者で博物館講堂は満員、かなりの熱気でした。約1時間半の講演の内容は、美人画、役者絵、名所絵と、江戸浮世絵の歴史をたどりながら、浮世絵や絵師・版元などが江戸社会の中で果たした役割を、歌麿、北斎、廣重などの著名作品をあげながら現代の雑誌と対比させるなど、タイトル通りの<見せる江戸文化>の解説になりました。せっかくですので、講演資料の概要をあげておきます。

<藤澤紫先生の講演資料概要>

1.浮世絵と江戸文化
①浮世絵を知る5つのキーワード
1.時代:「浮世の絵」(現世を楽しむための享楽的な主題) 
2.地域:「江戸絵」(江戸発の新しいメディア文化)  
3.技法:「(東・吾妻)錦絵」(江戸生まれのフルカラー印刷)
4.価格:「錦絵一枚一六文」(天保の改革時、俗にかけそば一杯)
5.心意気:「大和絵師」(伝統を受け継ぐ絵師集団としての自負)
②浮世絵の主題(江戸のメディア)
1.「美人画」(グラビア・ファッション誌)
2.「役者絵」(ブロマイド・パンフレット)
3.「名所絵」(旅情報・お守り) 
4.「報道絵」(情報誌・新聞)
5.「武者絵・相撲絵」(江戸のヒーロー)
6.「花鳥画」(四季のインテリア)
7.「見立絵」(文学・人物のパロディー)
8.その他(「玩具絵・千代紙・団扇絵など) 
③浮世絵版画の出版工程
1.版元(板元)…絵師に作画を依頼する。
2.絵師…薄紙に墨で描き、版下絵を作成。
3.版元…町奉行所管轄の絵草紙問屋組合行事
(天保の改革中は町名主)に版下絵を提出し改印を貰う。
4.彫師…版下絵を桜の版木に裏返して貼り主板を彫る。
5.絵師…朱文字で校合摺に色指定をする。
6.彫師…色指定に添って色板を作成する。
7.摺師…試し摺りの後に、初摺をおこなう。
8.版元…絵草紙屋にて商品として販売する。
④彫摺の手わざ(アダチ版画研究所HPより http://www.adachi-hanga.com/adachis.htm)彫の工程
2.美人画の楽しみ
①喜多川歌麿(?~1806)略伝 
②「ファッション誌」としての美人画
3.役者絵の楽しみ
①「歌川派の三羽烏」 歌川国貞(1769~1825)・歌川広重(1797~1858)・歌川国芳(1797~1861)
歌川派は、歌川豊春(1735~1814)を祖とする浮世絵の一派。豊春は明和(1764~72)頃から制作を開始し、名所絵(浮絵)、美人画、役者絵などの版画のほか、肉筆画も得意とした。豊春の門人、歌川豊国(1769~1825)の頃に多くの弟子を輩出。「歌川派に非ざれば、浮世絵師に非ず」と言わしめるほど、歌川派は隆盛を極めた。
②役者絵の教本 『役者似顔早稽古』 初代歌川豊国画 鶴屋喜右衛門 文化14年(1817)刊 1冊
立命館大学アート・リサーチセンター所蔵 hayBK03-0802
③ 死絵―最期のブロマイド―
4.名所絵の楽しみ
①葛飾北斎(1760~1849) 
②北斎の名所絵―富士を描く―
・天保2(1831)年~葛飾北斎画「冨嶽三十六景」刊行(西村屋与八永寿堂版・46図)
・天保4(1833)年~歌川広重画「東海道五十三次之内」刊行(仙鶴堂・鶴屋.喜右衛門、保永堂・竹内孫八版・55図)
・天保5(1834)年~葛飾北斎画『冨嶽百景』刊行(西村屋与八永寿堂版・110図)
③「冨嶽三十六景」と江戸のトリックアート
主版を藍で摺った36枚(表富士)に主版が墨摺の10枚(裏富士)を加えた46枚揃。日本の本藍と輸入のベロ藍の併用、やまと絵の平面性と洋風風の遠近法の併用など、和洋、新旧の融合が意識される。